大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 平成3年(ネ)93号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

(1) 原判決を取消す。

(2) 本件訴えを却下する。

(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

主文と同旨

二  事案の概要

本件は、被控訴人が、その所有の不動産につき破産者株式会社日証金を権利者とする根抵当権設定登記等がなされているとして、破産終結後に、破産管財人である控訴人に対して登記抹消を求めた事案であり、原審は、控訴人の被告適格を認め、被控訴人の請求を認容した。

事実関係の概要は、原判決「事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

三  本案前の抗弁及びこれに対する当裁判所の判断

1  控訴人は、別紙のとおりの理由から、本件訴えは却下されるべきである旨主張する。

2  そこで、先ず本件訴訟の当事者適格について判断する。

前記事実によれば、被控訴人が本件訴訟において抹消を求める各登記は、いずれも昭和四〇年一二月二三日にされたものであるところ、その登記権利者である株式会社日証金がその後破産宣告を受けたため、右各登記にかかる権利は破産財団に属し破産管財人の管理下に置かれたものであるが、昭和五〇年一二月二五日の破産終結決定以後も登記が残存するに至ったものであることが明らかである。

ところで、破産手続が破産終結決定により終結し、その公告がされると(本件破産手続においても破産終結決定がなされたころ、その旨の公告がされたことが推認される。)、原則として、破産管財人の任務は終了し、破産者は、破産財団に属する財産の管理処分権を回復する。したがって、計算報告のための債権者集会において破産管財人が価値なきため換価しなかった財産で破産者の自由処分に委ねる旨の決議がされた財産(破産法二八一条)はもとより、そのほかに残余財産があれば、これらの財産の管理処分権は破産者に帰属することとなる。しかし、残余財産が追加配当の目的となるべきものである場合には、破産管財人は、追加配当をなすべき権利義務を負う(同法二八三条一項)から、その限りにおいて当該財産の管理処分権を失わないといわなければならない。したがって、破産終結決定後に破産財団に属する残余財産に関し提起される訴訟の相手方となるべき者は、当該残余財産が追加配当の目的となるべきものであるか否かによって異なることになるというべきであるが、当該財産が当事者の主張自体から又は事柄の性質上明らかに追加配当の可能性がないものでない限り、一応その可能性のある財産として扱うべきであり、右の如き特段の事情のない限り残余財産に関する訴訟は破産管財人を相手として提起すべきである。蓋し、当該財産が追加配当可能な財産であるか否かは、破産管財人の具体的な調査、検討の結果を待って決せられるべきものであるところ、このような調査、検討は当該財産に対する管理処分権を背景としているというべきであるからである。

そこで、これを本件についてみるに、本件各登記にかかる権利が存在しているとすれば、追加配当の対象となる財産が存する可能性があるというべきであって、追加配当の可能性のないことが明らかであるということはできない。もっとも、本件訴えが提起されたのは平成二年一〇月三〇日であることは本件記録上明らかであり、破産終結決定のときから約一五年経過しているのであるから、本件各登記の原因たる権利は既に時効により消滅している可能性が高いと考えられないではないが、時効の成否のごときは本案の審理を経なければ単に時効期間の経過だけで判断することはできないのであって、いま直ちに権利が存在しないと断定できるものではない。そうとすれば、本件各登記にかかる権利について追加配当の可能性のないことが明らかであるとはいえないから、本件訴えの相手方は破産管財人である控訴人とすべきであるといわざるを得ない。

したがって、控訴人の本案前の抗弁は理由がない。

四  本案について

被控訴人所有にかかる原判決別紙物件目録記載の不動産に本件各登記が経由されていることは前記「事案の概要」でみたとおりであるところ、控訴人は右各登記に対応する権利の存在について何ら主張、立証しない。

してみれば、被控訴人の本訴請求は理由がある。

五  よって、被控訴人の本訴請求は認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

本案前の抗弁の理由

一 我国破産法の定めのうえからは、破産管財人は、破産事件が配当によって終結し、破産終結決定がなされ、その公告の効力が発生したとき、その任務を終了し、破産者は破産財団に属する財産の管理処分をなす権限を回復すると解され、例外的に破産管財人については、追加配当をなし、または異議ある債権の訴訟を追行するなど、職務上の残務を遂行する範囲で破産財団に属する財産の管理処分権が残存し、この限りで破産者の管理処分権は及ばないと解されている。

二 破産管財人の残務は、追加配当をなす等のために限定されるから、破産管財人は、破産終結決定後は、追加配当の目的であるべき破産財団に属する財産についてのみ管理処分の任務を行うこととなる。したがって、残余財産が残存する限り破産管財人の任務は終了しないと解することはできず、かく解することは、緊急処分について定める破産法一六九条を無視したこととならざるを得ず、本件の如く任務終了後一五年余も経て応訴することを強いられ、かつ、破産裁判所の監督を受けることもなく訴訟にかかわることを強いられることになり、場合によっては訴訟費用の負担を強いられる如きことが生じるのであって、その不当たることは明らかである。

三 しかして、本件破産手続については、昭和五〇年一二月二五日破産終結決定及びその公告が行われて、これが終結の効力が生じたものであることは明白であるから、右効力発生と共に株式会社日証金が破産財団に属する財産の管理処分権限を回復したものである。

しかるところ、本件根抵当権等が破産財団に属するとしても、本訴請求自体から明らかなように、本件根抵当権等は、何ら原因のないものとして抹消登記を求められているものであり、追加配当の目的たるべき残余財産に関するものでなく、義務の無条件履行を求められているものとして何ら破産者の積極財産にかかるものでないことは明白である。仮にしからずとするも、破産終結決定後一〇年以上の経過からみて、その被担保債権が存するとしても、消滅時効の関係から、これが請求のできないことは一見明白である。

四 しかして、破産会社たる株式会社日証金は残余財産の存在しないものとして消滅したものとされているから、本件抹消登記手続を求めるには、商法四一七条二項により清算人を選任してなすべきものである。

五 よって、本訴請求は、当事者を誤った訴えとして却下をまぬがれない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例